「届けたい、読める教科書、DAISY教科書を!」

日本障害者リハビリテーション協会主催のシンポジウムに参加してきました。
はじめに、リハビリテーション協会情報センター長より「マルチメディアDAISY教科書提供の成果と課題について」というテーマで講演がありました。マルチメディアDAISY教科書は、全国のボランティア団体によって製作され、日本リハビリテーション協会を中心とするネットワークを通して提供されています。2月2日現在で、1105名の児童・生徒が利用しているそうです。
23年度にDAISY 教科書の提供を受けた利用者に対するアンケート結果(回答者数214名)によりますと、「読みがスムーズになった」、「読み間違えが少なくなった」、「読むことへの抵抗感、苦手感、心理的負担が減った」、「授業での発表(発言)の機会が増えた」、「授業に自信をもって取り組むようになった」、「文章の理解度がよくなった」などの項目で効果があったとのことです。

一方で、アンケート回答者214名中46名の児童・生徒は、提供されたDAISY教科書を使用しなかったそうです。使用しなかった理由としては以下のようなことが挙げられていました。DAISYが全ての人に合うと言えないのは当然のことです。けれども、PC環境が整っていないことやサポート不足のために、必要な人が使えない状態は改善していきたいものです。
・本人が全く興味を示さない
・AMISのインストールができなかった
・本人が使用方法が分からなかった
・子どもがひとりでPC使用できず、親が一緒に行う時間がとれなかった
・障害の特性と合致しなかった
・週1時間の通級指導の時間では他に学習させたいことが多すぎた

また、来年度DAISY教科書を希望しないという回答が26名ありました。
その理由は以下のようなことでした。
・来年入学する中学で通級の先生が対応してくれるとは思えない
・本人に音読練習するくせがついた
・読むより、書くことに困難を感じているので
・来年度、特別支援学校に転出予定
・活用する時間の設定が難しい
・本人が使用したくないというので

情報センター長の講演の後、現場の先生方から、DAISY教科書やDAISY教材を使った取り組みに関する事例報告がありました。通常学級の一斉授業の中でDAISYを使用した例も報告されました。「みんなと一緒に勉強したい」という男の子の願いをかなえるための実践でした。この先生の教室には、誰でも自由に使えるDAISYコーナーがあるそうです。

来年度は、中学校の教科書が全面的に改正になります。そのDAISY化には大変な労力が必要ですが、ボランティアでは負いきれない状態になってきています。国のしっかりした予算措置がなされていないため、必要な子に届いていません。また、現在DAISY教科書を使っている児童・生徒の成長とともに高校の教科書も必要になってきていますが、提供できていません。
こういった課題をもつDAISY教科書への理解と普及を求めて、このシンポジウムが開催されたのですが、最後のパネルディスカッションでは以下のような意見が出ました。

・低学年のうちに読み書きスクリーニングをして、読み書きの困難な子を担任の先生がはやく見つけてやる必要がある。
・通級クラスの先生が必要な子にDAISY教科書を使うと、その効果が他にも広がるのではないか。
・教室や図書館に、児童・生徒が自由に使えるDAISYコーナーがあるとよい。
・ボランティア製作者の労力軽減のためには製作簡易化(半自動化)も必要。

■主催:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
■助成:独立行政法人福祉医療機構 社会福祉振興助成事業
■日時:2012年2月5日(日) 13:00~17:30
■会場:戸山サンライズ 大研修室
■報告書 (公財)日本障害者リハビリテーション協会
シンポジウム「届けたい、読める教科書、DAISY教科書を!」